先日、10月に行われた第55回の通関士試験の合格発表がありました。
今回は色々と思うところがあり、22年ぶりに通関士試験にチャレンジしました。
今までずっと仕事(通関実務)漬けであまり通関士試験の内容に気が向かず、部下の受験(の結果)をただ見守っているだけでした。
ここ数年ブログやTwitterをするようになり、少し試験の内容や受験対策に興味が向きいろいろと調べていた際に、以前自分が受けた試験内容との違いや変化に少し戸惑いや違和感を感じたりしていました。
それはともかく今年に入り試験勉強に突入してその感覚は忘れ去られてしまったのですが、試験が終わり改めて振り返ることができる今、試験の感想や以前感じた違和感について今回は話をしようと思います。
* 品目分類対策について
最近の試験の内容をみて驚いたのがこれです。
様々な資格学校や市販の参考書を見てどれだけ力を入れているか?どれだけ重要なのかはわかりました。
実務科目で以前と明確に違うのは、以前は申告書そのものを作る事。私が受験した時代ですらマニュアル申告なんて現場ではあまり出番が無かったのですがそれを試験では作らされる。
今は品目分類ですね。関税消費税の納税額の計算はさせない。
品目分類の「対策」、正直興味ありました。「対策」なんてあるのか?単にタリフ引くだけなのでは?そこに何かハードルがあるのか?
というのは実務を長年やっている人間の言葉なのかもしれません。
でも以前私が受けた時は、分類が間違えたらほぼ点数は0点(関税率が違えば納税額も異なる)という重要な要素があるにも関わらず、分類対策という項目も無ければテキスト類も無かったように思います。
最近の傾向として出題品目が食品や繊維等で少し専門知識がないとなかなか点が取れない問題も出ているようですが、殆どが類注によく気を配って類を確定させればそれ程悩むものでもないかとも思います。
現場においても類注は良く読む。そこから類に該当するかどうかを判断して、あとは機械的に当てはめていく。
それだけです。
試験対策で「HSコードを覚える」ような事をどこかで読んだ気もするのですが、時間的に効率悪いような気もします。コードを覚えるよりも、インボイスを見て瞬時にどんな商品か?が頭でわかる事の方が大事だと思ってます。
コードを頭で覚えても法改正(今回改正されますね)等があれば無駄に終わってしまう。
出題側の税関は、通関士を目指している方々にそれを望んでいる訳では無いと思うのです。タリフの引き方。だと思うのです。
* 納税額の計算
去年の話ですが、試験を受けた部下にどうだった?と聞いたところ、
「久しぶり?に、関税消費税の納税額の計算が出たので面食らいました」
「はい?!」
最近の試験では関税/消費税の納税額の計算は出ないのか……?と驚きました。
去年と今年は出ましたが、それより以前は確かに似たような問題は無かったように記憶しています。
その計算問題を何故出さなくなったのか……?以前のマニュアル申告の作成問題では納税額の計算は必須でした。
現在の現場でも、例えば修正申告。あと事故貨物の申告でマニュアル移行されたもの等。これらは自分で納税額の手計算をしなければなりません。案外出番は多いのです。
それらは通関書類を審査する通関士に当たり前に備えていなければならないものでは無いのか……?当たり前すぎて試験に出すレベルでは無いのか……?
出題者の意図に興味があるところです。
* 基本通達レベルの出題
今年の通関業法は基本通達レベルの出題もあり(たまにあるんでしょうかね)、ビックリしました。試験場で動揺された方、沢山いらっしゃるのではないかと思っています。
あくまで持論なのですが、通関士の試験において通関「業」法の基本通達レベルの時間を出す意義がどこにあるのか?と思っています。
通関業法は、通関「業を営む」(通関業者)ものについて定めている法律であり、通関「士」とは直接的に関係しているものではありません。
通関業を営む法人が理解をしていないといけない法律で、その法人の中(取締役)に通関士がいなければいけないわけでもなく、通関営業所の責任者が通関士でなければいけないと定まっているわけでもありません。
通関業者に雇用されている通関士。そういう関係なのです。
いたずらに通関業法の難易度を上げていくのはどうかと思っています。
そういう意味では、3科目中の1科目というウェイトも違和感あります。
関税法においても、基本通達レベルの問題がほんの少し出ているようです。税法や定率法などは基本通達まで含めるととてもでは無いですが試験勉強においては時間が足りない。
現場において通関実務に携わっている人間がどれだけ基本通達を把握しているかというと、一度自分が実務で経験したもののみ、という方が多いのでは無いかと思います。全てを把握して実務をこなしている方は極々限られた方……いや、いないのでは無いでしょうか……?
税関側はもちろん正答率の数値を握っており、受験生の基本通達レベルの正答率を見て来年度の試験作成の参考にしているのだと思います。
感覚的に基本通達レベルの問題数が多くなるというのは去年以前のそのレベルの問題の正答率が高かった(悪くなかった)のだろうと思いますが、一定の合格率を維持し続ける必要がある税関側の意図が本来の試験目的と乖離していく事もあるのではないか?とも感じています。
* 原産地規則について
そもそも私が初回に受験した22年前は現場で原産地規則が使われるのは特恵関税のみであり対象国は多いのですが通関士試験的にはそれ程重要な項目(点数配分)では無かったような記憶があります。
それから時代が流れFTAが多数締結され国際貿易上も重要度は増すばかりです。
試験においても税法と実務で、原産地規則やFTAに関しての点数配分は無視できないのでは無いかと思います。
私が今回使用したテキストはマウンハーフの合格ハンドブック(過去においてもそうです)でしたが、この原産地規則については少し説明が足りなかったように思いました。
去年、EPAビジネス検定試験を受けたので改めて勉強し直しができたので少し余裕があったという事と再度そのテキストを見返したりして間に合わせました。そのテキストで充分かと思います。
税関のHPに原産地ポータルというサイトがありそこにも基本的な資料が載っています。少し前に通関士研修で原産地規則の科目を受けましたが講師曰く、「この資料を完全理解できればプロと言える」ような事を言っていたような気がしますが確かに参考書並みの説明はあります。
この項目だけでも相当な知識量が必要であり、通関士が備えておくべき必須項目です。
間違いなく世界はしばらくはFTA中心に進んでいくと思われるので、試験においても重要度は変わらないのではないでしょうか……。
以上となりますが最後に。今まで話をしてきた内容は決して受験勉強の指針について述べたものではありません。そこは誤解無きように宜しくお願い致します。