先日、ある説明会に参加しました。
そこでの資料に「通関士を取り巻く環境」という事で、
・慢性的な通関士不足
・EPA FTAの拡大 = 手続き高度化による通関コンサルニーズの拡大
というような事が書かれていました。以前からこの業界では取り沙汰されていた内容のものです。
以下、個人的な意見ですがこれらについて述べてみたいと思います。
①慢性的な通関士不足について
その根拠についてその資料にはこのような事が書かれていました。
過去10年、通関件数は6割増なのに対し通関士は1割増であるという事。
確かに「不足」という意味ではそのようにも読み取れますし間違ってはいないと思っています。
通関業者内の通関士数という観点でいうと、税関のHPに通関士と従業者(登録)の割合の資料があり、2017年までは従業者の方が多く、2018年以降は通関士が従業者を上回って現在に至っているようです。
https://www.customs.go.jp/tetsuzuki/c-answer/shiken/8101_jr.htm
通関士そのものの増加は間違いないようです。
別の見方で、申告件数が多いという事は業界内で言うBL件数も多いのではと想像できます。と言う事は中小規模も含めてフォワーダー業者も増加しているのではないかと思っています。
それに関連してか最近の傾向として、フォワーダー業者の通関業取得が多くなってきている実感があります。
通関業者の推移についても税関HPに記載があります。
https://www.customs.go.jp/tetsuzuki/c-answer/sonota/9104_jr.htm
通関士も増えていれば通関業者も増えているようです。
環境としての整理は以上ですが、私が実際に現場で管理職として仕事をして社内を見たり同業他社を見て感じるのは、通関士「のみの」不足ではないな、という事です。
通関士には専門的な知識が要求されますが、それは通関業に従事している従業者も同様です。従業者は通関士ではないからそれ程知識を持つ必要はないということではありません。ですのでベテラン従業者の仕事ぶりも通関士と比較しても遜色無いパフォーマンスです。
通関士の義務として通関書類の審査がありますが、業務としてはここがポイントでその組織における通関士の人数によって現場の管理者はさまざまに工夫をして業務の割り振りをしていきます。
ですので業務量(申告件数)に対して必要な通関士数というのは、現場のマネジメント次第で上下はするのです。業法にも「必要な員数設置」とあります。もちろん負荷をかけ過ぎてミスが出たり労働環境(残業や休日出勤)が出るような割り振りはマネジメントとして失格です。
そこから思うのは通関士もそうですが通関現場(通関士+従業者)の人員不足と置き換えた方がしっくりくるな、と個人的には思えます。
さて、その論拠を聞いて「そんなに(専門性を備えている)人材がいないのか?」と思う方もいるのではないでしょうか?
管理者視点では、そんな事は無いと言えます。業務量が限界を超えて増えた時に増員しようとしても補充はそれ程難しい事ではありません。経験者は中途採用は可能ですし、他部所からの異動で教育を施して戦力にする事も可能なのです。
要は「収益」の話なのです。
これは後ほど話をしたいと思います。
ところで「通関士不足」のフレーズで思い出す事があります。
数年前に知り合いが主催しているセミナーで講師を務めた時に、受講者(荷主)からの質問で「通関案件を通関業者に委託しているのですが、荷主側は通関士を指名できないのでしょうか?」と質問された事がありました。要は遠回しに、今担当されている通関士の対応が不満だという事でしょう。
通関士に限らず、委託先やそれこそ客先の担当に対しての不満を持つというのは誰しも経験があると思います。通関士だからという訳では無いでしょうが、荷主側としては他社の通関士と比較してという視点で不満があるのかもしれません。私も現場でいろいろと内外の仕事ぶりを見ていて、特に税関への対応についてはその担当者の性格が出てしまうな、と思う事があります。
そういった面で、少し上から目線で恐縮なのですが、「できる or 使える通関士の不足」というのはあるかもしれないなと思います。
②EPA FTAの拡大 = 手続き高度化による通関コンサルニーズの拡大について
FTAが始まってから20年くらい経つのだと思います。当初はそれ程複雑では無かった気もしますが、多国間とのFTAが結ばれるようになりそれ以降いくつものFTAが同じ国が絡み合って締結されていくと複雑化して、税関の現場の方もご苦労されているのでは無いかと思います。もちろん民間の通関業務現場も同様です。
説明会があるたび足を運んで聞いていましたが、ここ何回かのFTAの説明会で「通関業者や通関士の専門的な知識に期待」するようなコメントを聞いたような気もします。
もちろん専門的な知識はFTAだけではありません。
ところで、もともとある制度が環境によって変化し複雑化する一方で、経営環境も大きく変化し業界によっては更に専門化されて、このような少し難しい通関関連(貿易実務)の業務は専門(通関)業者に丸投げする企業も増えてきているのでは無いかと思っています。
もともと日本では人的な余裕がない中小企業が多い事もそれを後押ししていると思います。
さて、そんな中で冒頭の「通関士」についてですが、「通関士として」どんな事ができるのでしょうか……?
他社を詳しく見れているわけでは無いので推測ですが、通関士の業務範囲は大きく分けて、1、書類作成のみ(分業制が進んでいる。中堅以上の企業に多いかも) 2、営業窓口も含めて一貫で通関業務を行う(自己完結型。中堅以下中小企業に多い) どちらかかと思います。
業務を行う先(評価される先)が、内(社内)か外(客先)か、の違いです。
通関コンサルニーズ。あまり聞き慣れないフレーズですが、これは昔からあります。今風のカッコいい表現になっただけですね。
自分の持っている専門知識に更に磨きをかけて、分業制の組織に勤めているのであればそれを上司に提案で使う。自己完結型の組織に勤めているのであれば客先に提案する。どちらもアリかと思います。
ただそれだけではせっかくの専門知識が本当の価値ある知識にはならないように思うのです。確かに会社の上司に褒めてもらう、客先から一定の評価をもらうというのはとても重要な事です。
ただその知識の提供が、どれだけの価値に置き換えられるのか?金額?時間?それを意識して具現化する事はできないのか?と疑問を持つべきだと思うのです。
前回のブログに「無償のサービスが日常化しているのでこの業界はコンサルティング業が成立しにくい」と書きました。
冒頭の「通関コンサル」。提案はそれ程難しくはないのです。それを価値あるもの、ビジネス化できるものに変換できないか?出来る方がいたらとても素晴らしいと思います。独立も可能です。
この提案が現在は無償でされている。通関士の成果とは書類の捌く数に比例します。なので書類の数 = 組織の成果(売上) = 人件費が決まる となります。
①の項で挙げた通関士(=通関現場の頭数)の不足はそこの組織の売上にある程度左右されます。
通関は無くてはならない仕事ですが、「業」なのです。ビジネスの側面もあります。
通関書類の作成だけでなく、それ以外の収益があげられる付加価値の提供。これが必要なのでは無いかと思います。
これが出来る通関士は将来の取れる選択肢(働き方)がもっと広がるのではないかと思っています。