ひろさんの貿易・通関 雑記録

貿易、物流、通関に携わる会社員の呟きです。 輸出入業者や貿易通関実務担当者へ、ビザスクやココナラでコンサルもしてます。  

誤謬について

 普段あまり使われない言葉ですが、通関の仕事をされる方は敏感に反応する言葉だと思います。

 

 奥が深いテーマなのですが、今回は少し限定的に話をしていきます。

 

要は「申告書の間違い」という事です。

専門知識を有している国から認められた通関業者(通関士)が申告書に頻繁に間違いがあってはならない。税関の方でも誤謬率というものを通関業者ごとにカウントしています。これが一定のラインを超えると指導が入る事になります。

 

「申告書の間違い」の要因を区分けしていきますと、

 

1、依頼先の荷主(これは荷主と売買契約を結んでいる売手又は買手も含みます)によるものなのか、通関業者によるものなのか?

 

2、不可抗力のものか、人為的なものか?

 

大きく分けるとこの二つに絞られるのではないかと思います。

 

通関業者として、品質とは何か?と考えた場合、最低限抑えておかねばならないのはこの(低い)誤謬率です。

そして仕事を進めているのは人間なので間違い(誤謬)が出るのは当たり前で、それを企業(個人)内で何とか「0」に近づけるように日々努力している訳です。

 

私は、経験も知識もそして知恵も無い状態から通関業を始めたので、この取組みに関してビジョンや方向性、末端の作業まで、一から作り上げてきました。

その経験を一言で表すのなら「この取組みに終わりは無い」という事です。モグラ叩き(事故撲滅対策)は永遠に続くと。

その都度、何か間違い(問題)があると分析をして対策を施すのですが、それはあくまで「その環境下」での最適解なだけの話で、環境はすぐに変わっていきます。

 

法律、客先、商流の流れ、客先の担当も変われば通関実務の担当も変わります。経験値も様々です。ですので対策を施したのに何でまた同じ間違いが出るの?とマネジメント経験が浅い時は思ったりしましたが、落ち着いて分析をしていくと「それは数年前に打ち出した対策は使えないよな」と腑に落ちる事が結構ありました。

 

間違いを防ぐルール(対策)を作るにあたって、「あれもこれもそれもどれも」と全ての問題に対応できるようなものは作らないようにしました。

 

案外、対策を作るとなるとそれにのめり込み対策マニュアルが分厚くなってしまいがちと思います。

対策は非常に大事です。通関業者にとって誤謬率は生命線に等しい。

 

ただそれに膨大な時間をかけて、そもそもの「申告」がなかなか進まず、1案件終了にどれだけの時間をかけるのか?と考えた時に、業としての生産性が忘れられてしまう事に気づいて、これは同時に追求しないといけないことだ、気づいたからです。

 

極端な例ですが、1案件、1アイテムの輸入申告がありそれに携わる通関士がつきっきりで対応すると仮定した場合、書類作成から(事故が起きないよう分厚いマニュアル通りに)ダブルチェックをして申告するまでに丸2日かかるとか(これはマルチタスクの話ではなく)……経験者ならば分かると思いますが、そんな時間の使い方はあり得ません。業(ビジネス)として存続できるはずがない。かけている時間に対して貰い(売上 = 案件処理)が少なすぎる。

 

例が極端すぎましたが、そういう意味でかける時間(これはコストです)とそれに対する効果(どれくらい事故を減らす事ができるか?)のバランスを見て考える必要があると思い対策を実施してきました。

 

ところで、この対策の精度というか効果の大きさ(的を射ているか)は業務の蓄積によるものも大きいと思っています。

 

もし私が転職した際には、その会社の事故撲滅に対する考え方や対策をしっかりと見てみたいと思っています。

経験 = 長年の実績から生み出された事故対策というのは奥が深い。

新入社員や転職された方は、とりあえず会社から言われた通りの書類作成手順を踏んで、言われた通りのチェック体制に沿って作業を進めます。疑問に思ったり思わなかったり、無駄と思ったりするかもしれませんが、その作業手順はその企業での長年の思考錯誤から生み出された現状ベストの手順なのです。いわば財産。大概は今自分が思っている疑問点は、既に何年か前に解決済みの疑問であったりします。

 

私はそういう環境下でまだ働いた事がないので転職される方や新入社員を羨ましく思う事があります。表現が良くないかもしれませんが、他人の手垢(経験、叡智)がついたルールを見てみたい、そこで仕事をしてみたい。

 

 

少し話を戻しますが、誤謬率を下げるにあたり不可抗力で誤謬が出てしまうものについては(当たり前ですが)それ程対策に時間をかけません(ゼロではないです)。

どんなものが該当するかというと、例えば荷主側にその原因が認められる場合(荷主を責めている訳ではありません)。

 

申告をしてから許可になるまでの間に、金額が違うのでインボイスを差し替えたいとか、単価が間違えていたので訂正したい等の依頼がある場合です。諸事情ありますが、通関業者としてはどうしようもないケースが殆どなので、対策としては事後に荷主に対して説明をして今後こういう事が起きないようにお願いをします。

 

また原産地違いもあります(原産地誤認でなく)。書類上の記載と荷主の認識が一致しているにも関わらず、税関検査で商品の現物確認をした際に異なる原産地表記だったという事もありました。もちろん申告書類の訂正になり誤謬となりますがこれについても「効果的な」対策は立てにくい。そもそもの荷主の認識が現物と異なっているケースなのでこれは輸出者と輸入者(荷主)間の話になるので、これについても正確な情報提供のお願いをする以外に思いつきません。

このように事前にはどうにも対策が打てないものに対しては、いくら時間と労力をかけてもそれに見合う効果は得難いので必要最低限の打ち手に留めておきます。

 

一方で人為的な、特に通関業者内での事由による誤謬というのは、対策として色々と考えなければいけないものがあります。

 

これについては次回に話をしてみようと思います。